モデルマウスによる自閉症の神経回路形成メカニズムの解明と治療応用

川村 敦生

金沢大学医薬保健研究域医学系 組織細胞学 助教

神経発生は時空間的に精密に制御されていますが、その破綻は不完全な神経回路形成を引き起こし、自閉スペクトラム症などの発達障害の発症に寄与することが示唆されています。自閉症は、コミュニケーション能力の質的障害および常同・反復的な興味・行動で特徴付けられる非常に発症頻度の高い発達障害です。自閉症を含む発達障害の患者の多くは社会生活に支障をきたしており、社会的に大きな問題となっているため、病態の解明と科学的根拠に基づいた治療法の確立が急務となっています。自閉症の病態を理解するためには神経発生異常とその後の神経回路形成の関連性を明らかにすることが重要だと考えられます。近年、自閉症患者における大規模な原因遺伝子探索によってクロマチンリモデリング因子CHD8が最も有力な自閉症原因候補遺伝子として同定されました。私たちのグループは、自閉症患者で報告されたCHD8変異を模倣した全身CHD8へテロ欠損マウスを作製し行動解析を行ったところ、自閉症を特徴付ける行動異常が再現されることを確認しました。さらに、このマウスにおいて神経発生や神経回路に異常が生じていることを明らかにしました。そこで本研究では、自閉症モデルマウスを用いて脳発達過程におけるどのような異常が後の神経回路構築に影響を与えているかを明らかにすると共に、その神経回路の変化と自閉症様行動との関連性を検証することによって、自閉症の病態解明と治療応用を目指します。

文献

  • Kawamura A et al. (2021) The autism-associated protein CHD8 is required for cerebellar development and motor function. Cell Rep., 35:108932.
  • Kawamura A et al. (2020) Chd8 mutation in oligodendrocytes alters microstructure and functional connectivity in the mouse brain. Mol. Brain, 13:160.
  • Kawamura A et al. (2020) Oligodendrocyte dysfunction due to Chd8 mutation gives rise to behavioral deficits in mice. Hum. Mol. Genet., 29:1274-1291.
  • Katayama A et al. (2016) CHD8 haploinsufficiency results in autistic-like phenotypes in mice. Nature, 537: 675-679