多様な行動を適応的に創出する回路遷移機構のセンサスに基づく解明

能瀬 聡直

東京大学大学院 新領域創成科学研究科 教授

外界との相互作用のなかで生存に適した行動を選択することは、脳神経系の最も重要な機能です。しかしながら、細胞集団の神経活動パターンがどのようにして展開し、特定の行動の生成に結びつくのか、その仕組みは未だ明らかになっていません。本研究では、コネクトミクス解析(連続電子顕微鏡画像三次元再構築)や高度な遺伝子操作が可能であり、中枢回路の構成と機能を単一細胞種のレベルで解剖可能なショウジョウバエ幼虫において、行動選択時に活動する細胞を系統的にプロファイリングすることで適応機能を生む回路遷移の仕組みを探ります。このため、幼虫が状況に応じて前進と後退という逆方向の移動運動を切り替える系をモデルとしたセンサス研究を行います。これまでに、感覚―運動回路の両端に存在する回路要素、すなわち感覚入力を受け前進/後退運動を司令するWaveニューロンと、前進/後退の運動出力を担う神経回路を明らかにすることに成功しています。そこで本研究では両者の間に存在し、回路遷移において決定的な役割を果たすような候補細胞をセンサスによる網羅的な探索により同定します。具体的には、1)活動依存的に色変換する蛍光タンパク質CaMPARI2による標識・単離と単一細胞RNA-seqによる行動間比較遺伝子プロファイリング、2)膨張試料顕微鏡法を用いたカルシウムイメージング試料における細胞同定、の2つの研究計画を推進することで、神経細胞の活動とIDを結びつけ、適応脳機能の原理を名前のついた細胞からなる回路レベルで理解することを目指します。

文献

  • Zeng X et al. (2021) An electrically coupled pioneer circuit enables motor development via proprioceptive feedback in Drosophila embryos. Current Biology 31: 5327-5340.
  • Hiramoto A et al. (2021) Regulation of coordinated muscular relaxation by a pattern-regulating intersegmental circuit. Nature Commun. 12: 2943.
  • Kohsaka H et al. (2019) Regulation of forward and backward locomotion through intersegmental feedback circuits in Drosophila larvae. Nature Commun. 10: 2654.
  • Takagi S, Cocanougher BT, Niki S, Miyamoto D, Kohsaka H, Kazama H, Fetter RD, Truman JW, Zlatic M, Cardona A, *Nose A. (2017) Divergent Connectivity of Homologous Command-like Neurons Mediates Segment-Specific Touch Responses in Drosophila. Neuron 96(6):1373-1387.