脳変容メカニズムの解明のための転写因子活性センサス

安部 健太郎

東北大学 大学院生命科学研究科 教授

動物の適応的な行動を可能にする神経系の可塑的変化の過程では、脳内細胞が経験・活動・病態依存的に発現する遺伝子を変化させます。近年のシーケンス技術関連の技術革新によって、ゲノム情報や、脳の細胞が発現するトランスクリプトームとその変化については多くの知見が得られるようになりました。一方で、本来は同じゲノムをもつ細胞がそれぞれに個性を獲得し、経験に応じてそのトランスクリプトームが変化する機構や、記憶・学習や疾患など、生体の適応的変化の過程においてトランスクリプトームが変容していく機構については、不明な部分が多いのが現状です。転写因子は、遺伝子の発現を直接制御することにより、ゲノムからトランスクリプトームを作り出し、生物の適応的変化における変容過程を司りますが、既存の技術では成体脳内において転写因子の活性を測定することは困難です。最近我々は、成体脳内において細胞が内在に発現する多数の転写因子の転写制御活性を定量解析し、転写因子活性プロファイルとして解析する技術を確立しました。本研究では、本技術を発展させ、成体脳における単一細胞での複数の転写因子活性の測定法を確立し、単一細胞トランスクリプトーム情報と単一細胞転写因子活性プロファイルを統合的にマルチオミクス解析を行います。本研究で確立する転写因子活性センサスにより、脳機能変容に関わる神経回路を転写因子活性を指標に明らかにし、その機能を実験的に解明します。

文献

  • Abe H et al. (2022) PCR-based profiling of transcription factor activity in vivo by a virus-based reporter battery. iScience, 25(3):103927.
  • Abe K et al. (2015)Transgenic songbirds with suppressed or enhanced activity of CREB transcription factor. PNAS, 112(24):7599-604.
  • Abe K et al. (2011). Songbirds possess the spontaneous ability to discriminate syntactic rules. Nat. Neurosci, 14(8):1067-73.