行動選択を担う神経投射の多様性構築メカニズム

研究代表者

藤山 文乃

教授 北海道大学 大学院医学研究院

研究分担者

大野 伸彦

教授 自治医科大学 医学部

行動選択に伴い、構造的・遺伝的に規定された神経回路がドーパミンの影響によってどのように遷移していくのかを遺伝子発現、形態、電気生理学的特性の面から明らかにします。

 報酬に関連して行動を選択するプロセスは個体の生存に必要な適応戦略で、中脳黒質のドーパミン神経細胞が重要な役割を担っていることが知られています。このドーパミン神経細胞は、細胞体の大きさや樹状突起の形状などの形態学的な特徴が均一ではなく、膜電位などの電気生理学的性質にも多様性があります。また、1つの細胞が異なる複数の遺伝子を発現しているのですが、明確なサブセットに分類するまでには至っていません。適応行動の選択において、各々のドーパミン神経細胞がどのような機能を担うのかを論じるためには、各々の細胞が主な投射先である線条体のどの機能領域のどのタイプの神経細胞に入力するのかを知る必要があるのですが、現在のところ、遺伝子、形態、電気生理、投射様式の全てに通底する神経細胞の網羅的なプロファイリングは不完全なままなのです。
 本研究計画では、適応行動の選択の際に特異的な活動を示す神経細胞に、順行性かつ経シナプス性に運ばれるウイルスを感染させ、この感染細胞の遺伝子プロファイリングを明らかにするとともに、この神経細胞の軸索が投射するポストシナプス側の神経細胞の詳細な遺伝子プロファイルを明らかにすることを目指します。私たちの先行研究では、1つのドーパミン神経細胞が投射する線条体神経細胞は計算上75,000個とも類推されます。この大量な遺伝子情報を解析するために、ハイスループット遺伝子解析技術と連携します。この技術に、投射軸索完全可視化、三次元電子顕微鏡解析を含む超解像度形態解析技術を有機的に連携させることで(神経回路seq)、「行動選択に伴い、構造的・遺伝的に規定された神経回路がドーパミンの影響によってどのように遷移していくのか」という学術的問いに迫ります。その過程で、他の計画班(郷班、小林班、礒村班、島崎班など)や公募班の皆さんとも積極的に連携協力して適応回路センサスを実現します。

【研究紹介図】

最近の主要論文

  1. Karube F et al. (2019) Motor cortex can directly drive the globus pallidus neurons in a projection neuron type-dependent manner in the rat. eLife 12, e49511.
  2. Nakano Y et al. (2018) Parvalbumin-producing striatal interneurons receive excitatory inputs onto proximal dendrites from the motor thalamus in male mice. J Neurosci Res. 96, 1186-1207.
  3. Unzai T et al. (2017) Quantitative analyses of the projection of individual neurons from the midline thalamic nuclei to the striosome and matrix compartments of the rat striatum. Cerebral Cortex. 27, 1164-1181.