大阪大学 大学院 生命機能研究科 教授 堀江健生

2022年4月に大阪大学大学院生命機能研究科1細胞神経生物学研究室の教授として着任しました。私たちの研究室の研究目標は、研究室名の通り脳・神経系の生理機能や発生メカニズムを1細胞レベル、遺伝子レベルで理解することです。そして、それを達成するモデルシステムとして、シンプルかつ操作可能な神経系を持つホヤの幼生をモデルとして研究を進めています。
 ホヤは私たち脊椎動物と同じ脊索動物門に属しており、脊椎動物に最も近縁な海産の無脊椎動物です。幼生はオタマジャクシ型の形態をしており、背側に神経管が位置するなど脊椎動物と共通の体制を備えています(写真1)。ホヤ幼生の中枢神経系は177個と非常に少数の細胞から構成されており、ヒトの脳が1000億個、ゼブラフィッシュの幼魚の脳が100万個の細胞から構成されていることと比較すると、いかにホヤ幼生の脳がシンプルであるかを理解していただけると思います。そして、ホヤ幼生はたった177個のニューロンから構築される神経回路を駆使して、重力、光、接触刺激などの環境刺激を受容し、それぞれの環境刺激に適した行動を選択し、自身が一生を過ごす場所を探し求めて遊泳運動を行います。その際、ホヤ幼生は孵化後の時間に伴なって、重力・光・接触刺激の各外部環境に応答する神経回路を構築し、時間とともに応答する神経回路を変化させていきます。
 私たちの研究室では、ホヤ幼生の行動を制御する神経回路の全貌を真に1細胞レベルで理解することを目指して、ホヤ幼生の神経回路の研究にシングルセルトランスクリプトーム解析を応用した研究を進めてきました。そして、これまでに感覚神経細胞の発生・分化、進化機構(Horie et al., Nature 2018、Praktri-Chacha and Horie et al., PNAS 2022)、ドーパミン神経細胞の分化を制御する転写因子カクテル(Horie et al., Genes & Development 2018)などを明らかにしてきました。大阪大学ではホヤに存在する177個全てのニューロンの発生・分化機構とその生理機能を明らかにするとともに、シングルセルトランスクリプトーム解析の高等脊椎動物への応用を目指した研究も展開していきたいと考えています。また、私たちの研究室は総括班の活動としてシングルセルトランスクリプトーム解析の支援拠点を担当しています。班員の皆様がシングルセルトランスクリプトーム解析を行うことを希望される際にはぜひ大阪にお越し下さい。そして、皆様と一緒に新しい神経科学研究を展開出来ればと思っております。今後ともご指導、ご鞭撻のほどよろしくお願いします。

写真1
集合写真