視覚を介した配偶者選択における脳の性差と進化の分子基盤の解明 /Exploring the molecular basis of sexual dimorphism and evolutionary processes in the brain during visual partner selection
竹内 秀明 /Hideaki Takeuchi
東北大学 大学院 生命科学研究科 教授
Graduate School of Life Sciences, Tohoku University, Professor
HPリンク
https://sites.google.com/view/molecular-ethology-laboratory
性を持つ動物は自分自身の子孫を残すために異性をパートナーとして選択するが、その配偶戦略は性や種によって異なっている。これまでに研究代表者らはメダカを用いた行動実験から、オキシトシンシステムが配偶戦略の性差発現に必須なシステムであることを世界に先駆けて発見した。メダカはオスとメスで配偶戦略が異なっており、メスには異性の好みがあり、「馴染みのパートナー」を視覚で見分けて積極的にパートナーとして選択する傾向があるが、オスは特に異性の好みを持たない(Science 2014)。これまでにオキシトシン(OT)とオキシトシン受容体(OTRa, OTRb)をコードする遺伝子の変異体を作成して行動解析を行った結果、ot または otra のどちらかの遺伝子を欠損すると、メスは異性の好みを失うことがわかった。一方でオスは同じ水槽で育った「馴染みのメス」に対する異常な好みを持つことを見出した。よってメダカにおいてオキシトシンはメスとオスで逆の効果を持つことを発見した(PNAS 2020)。本研究ではオキシトシン変異体で賦活化パターンが変動する細胞タイプを検索して、オキシトシンシステムの標的を同定する。方法は昨年度確立した最初期遺伝子の発現誘導を指標に1細胞レベルで賦活化ニューロンの遺伝子発現プロファイルを同定する手法(scRNA-seqによる細胞種センサス技術: Act-Seq)を用いる。これにより配偶戦略の性差を生み出すニューロンを検索する。これに加え、本研究課題では日本産メダカだけでなく、インドネシア産メダカ近縁種とゼブラフィッシュを用いて、脳のscRNA-seq/Act-seqを実施してその結果を比較する。一部のメダカ近縁種のメスはグッピーのようにオスの体色を基準に配偶者を選択すると考えられている。さらにゼブラフィッシュはフェロモン(嗅覚)に誘因されたオスとメスが集団内で入り乱れる集団産卵型(Group spawner)である。このように配偶戦略が異なる複数の種を用いて、脳において種特異的な細胞タイプを検索・同定する。さらにAct-Seqを用いて性行動選択的に賦活化する細胞タイプが種特異的であるかどうか検定することで、種固有な配偶戦略に関わる細胞タイプの候補を検索し、配偶戦略の種差を生み出すニューロンを検索する。
文献
- Yokoi et al. (2020) Sexually dimorphic role of oxytocin in medaka mate choice. Proc Natl Acad Sci USA: 117, 4802-4808.
- Okuyama et al. (2014) A neural mechanism underlying mating preferences for familiar individuals in medaka fish. Science 343: 91-94.
- Wang &Takeuchi (2017) Individual recognition and the ‘face inversion effect’ in medaka fish (Oryzias latipes) eLife 6, e24728.