in vivoin vitroを駆使した固着性刺胞動物サンゴの環境適応責任神経回路の解明 /Investigating the neural circuits involved in environmental adaptation in sessile cnidarian coral using a combination of in vivo and in vitro approaches

西辻 光希 /Koki Nishitsuji

福井県立大学 海洋生物資源学部先端増養殖科学科 准教授
Fukui Prefectural University, Department of Marine Science and Technology

サンゴ礁が海洋に占める面積は全体の約0.2%に過ぎません。けれども海岸線に占める割合は全体の約16%、記載されている海洋生物の約25%が棲息していると言われ、漁業や観光業などでサンゴ礁域に住む人々の生活を支えています。しかし近年の人間活動による環境悪化、特に乱獲や海水温の上昇、海水の酸性化、オニヒトデの爆発的放散などにより世界のサンゴ礁が危機的状況にあります。サンゴは固着性の刺胞動物であり、日光や乾燥、海水温の乱高下など様々な環境の変化にその都度適応し続けることにより、生存しています。その適応機構の研究は「サンゴを自由に使えない」ことなどが原因となり、進んでいないのが現状です。
本研究計画では、特にサンゴの海水温変化に適応回路の全容解明を目的とし、ゲノムが解読され培養細胞系も確立されているウスエダミドリイシAcropora tenuisをモデルのサンゴとします。私が開発に携わったウスエダミドリイシ培養細胞 (in vitro) で得られた遺伝子発現や機能解析の結果を、実際のサンゴ(in vivo)を用いて検証します。これにより、刺胞動物サンゴの水温適応責任回路の理解に迫っていきます。本研究の成果により、恒常性を維持するために神経回路が構築又は再編成されて適応脳機能を獲得するメカニズムの解明という当該領域の目的の推進が貢献していきます。さらに、この適応機構の理解は進化的な知見を得ることに加え、絶滅危機に瀕する造礁サンゴの保全・再生など地球温暖化対策にも役立つことが期待できます。

文献

  • Kawamura K, Shoguch E, Nishitsuji K et al. (2023) In Vitro Phagocytosis of Different Dinoflagellate Species by Coral Cells. Zool. Sci., 40(6): 444-454
  • Tominaga H, Nishitsuji K, Satoh N. (2023) A single-cell RNA-seq analysis of early larval cell-types of the starfish, Patiria pectinifera: Insights into evolution of the chordate body plan. Devel. Biol. 496: 52-62
  • Nishitsuji K et al. (2023) An environmental DNA metabarcoding survey reveals generic-level occurrence of scleractinian corals at reef slopes of Okinawa Island. Proc. R. Soc. B 290:20230026
  • Kawamura K, Nishitsuji K et al. (2021) Establishing stable cell lines of a coral, Acropora tenuis. Mar. Biotechnol. https://doi.org/10.1007/s10126-021-10031-w.