時空間的プロテオーム技術による適応神経回路の分子機序の網羅的解析 /Spatio-Temporal Proteomics Decipher Molecular Mechanisms of Adaptive Neural Circuits

髙野 哲也 /Tetsuya Takano

九州大学高等研究院 生体防御医学研究所 脳機能分子システム分野 准教授 JST さきがけ兼任
Associate Professor, Division of Molecular Systems for Brain Function, Kyushu University Institute for Advanced Study, Medical Institute of Bioregulation, JST・PRESTO

脳内には、約150兆個ものシナプスが存在し、多様な脳機能を担う神経回路を形成する。これらの神経回路の活動は、私たちの行動や経験に応じて日々変化している。しかし、それぞれの神経回路がどのように形成され、変わりゆく脳機能を制御しているか依然として不明なままである。この理由は、一個の神経細胞が形成するシナプスは多様であるため、従来の手法では脳機能と関連した個々の神経回路に特化したシナプス構成分子群を解析することができなかったからである。近年、生体内のシナプス近傍分子群をビオチン標識する近位依存性ビオチン標識 (BioID)法が開発され、シナプスという大きな枠組みから興奮性シナプスと抑制性シナプスという2種類のシナプスに大別して高い空間解像度での分子解析ができるようになった(上江洲ら, Science, 2016)。さらに最近、申請者は高活性型ビオチン化酵素TurboIDをN末端とC末端に分割し、特定の細胞間接着部位でのみ再構成させることで細胞間隙に存在する分子成分を網羅的に同定するSplit-TurboID法を開発した(髙野, Nature, 2020)。本研究課題では、これらのBoID法を応用することで、特定のタイムスケールで個々の神経回路機能を制御する分子成分を網羅的に探索する為の時空間プロテオーム技術を開発する。そして、個々の適応回路の形成機構と生理的意義の詳細な分子機序を明らかにすることによって、脳の動作原理及び精神・神経疾患の病態の解明を進める。

文献

  •  Ito Y et al. (2024) Synaptic proteomics decode novel molecular landscape in the brain. Front Mol Neurosci. Volume 17
  • Takano T et al. (2021) Tripartite synaptomics: Cell-surface proximity labeling in vivo. Neuro Res. 173:14-21
  • Takano T et al. (2020) Chemico-genetic discovery of astrocytic control of inhibition in vivo. Nature, 588(7837) 296-302