計画研究班B01 佐々木拓哉らの論文がNature Communicationsに掲載されました。
N. Kuga, R. Nakayama, S. Morikawa, H. Yagishita, D. Konno, H. Shiozaki, N. Honjoya, Y. Ikegaya, T. Sasaki
Hippocampal sharp wave ripples underlie stress susceptibility.
Nature Communications (2023), 14: 2105. doi: 10.1038/s41467-023-37736-x.
ストレスへの適応にかかわる神経メカニズムを解明
~遺伝子発現から回路レベルまで~
動物は、他の動物に攻撃されるような精神的なストレス負荷を受けると、不安やうつ症状などの精神破綻が生じます。逆に、そうしたストレスに適応できる動物個体もいます。このような個体差を説明する生物学的なメカニズムは未解明です。計画研究班B01の東北大学大学院薬学研究科の佐々木拓哉らの研究グループは、記憶に重要な脳領域である海馬に着目し、この領域の遺伝子発現を詳しく調べるために、ストレスを負荷する前のマウスから、腹側海馬の微量組織を採取し、遺伝子発現解析を行いました。すると、カルビンジンという遺伝子を強く発現していたマウスは、後に社会的敗北ストレスを負荷されると、うつ様の症状(感受性)を呈しやすいことがわかりました。さらに詳細な神経メカニズムを調べるために、こうしたマウスの腹側海馬に金属電極を埋め込み、電気シグナルである脳波を計測しました。すると、ストレス感受性が高いマウスは、ストレスを負荷した後に、腹側海馬にて記憶形成に重要な働きを担う「リップル波」と呼ばれる特徴的な脳波が多く観察されました。逆に、カルビンジン遺伝子を欠損させたマウスや、ストレス抵抗性が高いマウスでは、そのような脳波の変化は観察されませんでした。さらに、リップル波を直接かつ即時的に消失させる実験技術を用いて、ストレスを負荷したマウスにおいて、腹側海馬のリップル波を選択的に消去したところ、その後のうつ様症状の発症が抑制されました。以上の研究では、脳の遺伝子発現の解析からスタートし、同定された候補遺伝子に基づいて、ストレス応答に関わる適応回路メカニズムを明らかにしました。本領域が目指す「遺伝子発現と神経回路レベルの研究分野の融合」の一例となる研究成果です。
プレスリリースホームページ
http://www.pharm.tohoku.ac.jp/file/information/20230421-1.pdf