分化状態と遺伝子発現の多重プロファイリングによる適応回路構築機構の解読 /Dissecting the adaptive circuit construction mechanisms by co-profiling of neuronal differentiation state and transcriptome
中川 直樹 /Naoki Nakagawa
京都大学大学院医学研究科 准教授
Kyoto University, Graduate School of Medicine, Associate Professor
HPリンク
研究室HP:http://oka-lab.hs.med.kyoto-u.ac.jp
リサーチマップ:https://researchmap.jp/NaokiNakagawa
哺乳類の大脳皮質では、胎児期に形成された大まかな神経接続が生後発達期に再編され、高次脳機能に適応した機能的回路が構築されます。発達期の回路再編過程の神経細胞では、時空間的に厳密に制御された遺伝子発現を基に細胞形態・機能の分化が進行します。したがって、回路再編メカニズムの理解にはRNA-seq等による発現変動遺伝子の網羅的探索が有効だと考えられます。しかしその一方で、発達初期の脳では、個々の神経細胞間で分化状態の格差が大きいために、ヘテロな神経細胞集団を全て「同一齢の細胞」として扱う解析方法ではスクリーニング精度の低下が避けられず、回路再編の制御遺伝子を同定することが難しくなります。本研究ではこの課題を解決するために、「分化状態の不均一性」という発達初期脳の特徴を逆手にとったアプローチを導入します。具体的には、マウスのヒゲ触覚処理を担うバレル回路をモデルとして、大脳皮質バレル野の神経細胞から複数の分化パラメータ(発火特性、樹状突起形態の成熟度など)を抽出した後、レーザーキャプチャーマイクロダイセクション(LCM)を用いて細胞のアイデンティティを維持したまま当該細胞のRNAを取得しトランスクリプトーム解析を行います。この多重プロファイリングによって分化パラメータと遺伝子発現パターンを細胞ごとに照合し、分化状態の差異を特徴付ける遺伝子を絞り込みます。その後、生体内遺伝子操作と単一細胞形態解析・カルシウムイメージングを組み合わせて、神経細胞の形態・機能分化における候補遺伝子の寄与を明らかにします。この「分化状態と遺伝子発現の多重プロファイリング」によって、発達期大脳皮質において適応回路構築を制御する分子機構の解明を目指します。
文献
- Nakagawa N and Iwasato T. (2023) Golgi polarity shift instructs dendritic refinement in the neonatal cortex by mediating NMDA receptor signaling. Cell Rep 42: 112843.
- Nakagawa N et al. (2019) Memo1-mediated tiling of radial glial cells facilitates cerebral cortical development. Neuron 103: 836-852.
- Nakagawa N et al. (2017) APC sets the Wnt tone necessary for cerebral cortical progenitor development. Genes Dev 31: 1679-1692.