睡眠の性差を作り出す神経機構の解明 /Neural mechanism underlying sex differences in sleep

船戸弘正 /Hiromasa Funato

筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構 客員教授  
University of Tsukuba, International Institute for Integrative Sleep Medicine, Visiting Professor

睡眠は恒常性を持った制御を受ける。つまり睡眠が不足すると眠気として体験する睡眠へのドライブが強まり不足した睡眠を補おうとする。同様にエネルギー代謝にも恒常性があり、エネルギーが不足すると摂食行動が促進されたりエネルギー産生やエネルギー源の調整が生じる。マウスにおいては睡眠及びエネルギー代謝に明瞭な性差があり、雌は雄よりも覚醒時間が長く、肥満しにくい。睡眠覚醒、エネルギー代謝とも視床下部による制御を受ける。視床下部は、性的二型核と呼ばれる構造的に性差を示す領域やニューロン集団を含んでいる。この脳の性差の形成は段階的に行われるが転写因子Ptf1aが発生期の視床下部領域に発現することが最初期イベントである。しかし、成熟した脳、特に視床下部が睡眠やエネルギー代謝の性差を生み出す機構は明らかではない。本研究では、睡眠及びエネルギー代謝に共通する細胞内シグナル系に着目して、責任ニューロン集団を同定する。同定された視床下部ニューロン集団を用いて単一(核)細胞トリンスクリプトーム解析を中心とした神経細胞プロファイリングを行い、責任ニューロン集団の特徴抽出や操作のためのマーカーを同定する。性ホルモン、特にエストロゲンがこれらのニューロン群や睡眠覚醒に与える、時間的および空間的な分子メカニズムを解明することを目指す。本研究により、睡眠とエネルギー代謝の制御とその性差の基盤となる神経回路の作動原理を明らかにする。

文献

  • Kim et al. (2022) Kinase signalling in excitatory neurons regulates sleep quantity and depth Nature 612, 512-518
  • Choi et al. (2021) The role of reproductive hormones in sex differences in sleep homeostasis and arousal response in mice. Frontiers in Neuroscience, 15, 739236
  • Funato et al. (2016) Forward-genetics analysis of sleep in randomly mutagenized mice. Nature 539, 378-383