神経細胞の個性センサスによるセルアセンブリの構築と遷移 /Construction and Transition of Cell Assembly by Neuronal Individuality Census

八木 健 /Takeshi Yagi

大阪大学 大学院生命機能研究科 教授
The University of Osaka, Graduate School of Frontier Biosciences, Professor

動物の適応行動を制御する脳神経系では、神経細胞は個性的な活動を行いながら多様な神経細胞の集団的活動(セルアセンブリ)により、記憶や情報がコードされていることが明らかになってきている。脳には複雑な回路ネットワークがあり、個々の神経細胞が個性をもちながら集団的活動による機能を生みだしている。では、単一神経細胞の個性や回路形成はどの様なメカニズムによりもたらされているのであろうか?これまでのホールセルパッチクランプ法を用いた解析により、大脳皮質には単一神経細胞レベルで集団性の高い特異的回路があること、細胞系譜依存的な回路形成があることが明らかとなっている。また、大脳皮質視覚野では細胞系譜依存的に同一特徴抽出となるセルアセンブリが形成されていることも明らかになっている。さらに近年、記憶におけるセルアセンブリが経験以前にプレプレイとして形成・準備されていることが明らかになっている。しかし、単一神経細胞の個性獲得と特異的回路形成の分子メカニズムは未だに明らかにされていない。我々が発見した多様化細胞接着分子群であるクラスター型プロトカドヘリン(cPcdh)遺伝子群は、個々の神経細胞レベルで異なったランダムな組み合わせ発現をしており、特異的接着活性を持ち、シナプス形成に関わることが示唆されており、神経細胞の個性化やセルアセンブリ形成メカニズムに関わる分子群である可能性が示唆されている。そこで本研究では、細胞系譜依存的・回路依存的な神経細胞の個性センサスを単一神経細胞におけるcPcdh遺伝子の発現と機能を中心に解析することにより、セルアセンブリの構築と遷移に関わる分子メカニズムを明らかにする。

クラスター型プロトカドヘリン(cPcdh)遺伝子群と適応脳機能.58種類のcPcdh遺伝子は、免疫グロブリンと類似した可変領域と定常領域からなる遺伝子クラスターを形成しており、個々の神経細胞で異なるランダムな組み合わせ発現をしている。各cPcdhタンパク質はホモフィリックな接着活性を持ち、シナプス形成や回路形成に関わる。

文献

  • Kawamura et al. (2023) Reciprocal connections between parvalbumin-expressing cells and adjacent pyramidal cells are regulated by clustered protocadherin gamma. eNeuro 10: 0250-23.
  • Hoshino te al. (2023) Visualization of trans homophilic interaction of clustered protocadherin in neurons, PNAS 120: e2301003120.
  • Kobayashi et al. (2023) Isoform requirement of clustered protocadherin for preventing neuronal apoptosis and neonatal lethality. iScience 26: 105766.
  • Hirayama et al. (2022) CTCF loss induces giant lamellar bodies in Purkinje cell dendrites. Acta Neuropathol Commun 10: 172.