先読みと試行錯誤の行動戦略にかかわる、適応回路遷移の神経基盤センサス
小山 佳
量子科学技術研究開発機構 脳機能イメージング研究部 主任研究員
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研究室HP:https://www.nirs.qst.go.jp/seika/brain/index.html
リサーチマップ:https://researchmap.jp/oyamakei/research_experience/18277664
我々は普段、過去の経験を基にして試行錯誤的に物事を判断したり、次の状況を先読みしたりしながら最適な行動を模索している。このような行動戦略は拮抗的な関係にあり、それぞれの行動戦略にかかわる神経回路網機能の破綻により適応回路遷移が生じていることが推察されるが、その生物学的背景についてはほとんど明らかになっていない。本研究では、柔軟な行動決定に実現する神経回路網のはたらきと、精神疾患におけるその破綻の生物学的背景を明らかにするために、先読み・試行錯誤的という異なる行動戦略の選択にはどのような神経回路網がはたらいているのか、そしてその破綻により生じるであろう適応回路遷移には、どのような生理学的・分子生物学的な背景があるのか?を問う。
本研究課題では、サル前頭眼窩野と線条体・視床背内側(MD)核を結ぶ2つの神経経路間の拮抗的な作用が、先読みと試行錯誤のいずれの戦略を用いるかの選択にかかわっているという仮説のもと、その拮抗の破綻が引き起こす適応回路遷移の生物学的基盤を、①申請者らが確立した化学遺伝学的手法を用いた霊長類脳における経路選択的機能阻害法、②生理学的記録法、③rna-seqによる遺伝子の網羅的発現解析法を活用することにより検証する。それにより、前頭前野を中心とした霊長類の意思決定機構の理解を、神経回路網の相互作用とその生理・分子生物学的背景という単位での理解へと拡大・発展させることを目指す。本申請課題ではヒトに近い霊長類モデル動物による検証を行うため、得られた結果は基礎脳科学的知見にとどまらず、ヒト高次脳機能や精神・神経疾患の病態の理解に向けて大きく貢献できることが期待される。
文献
- Oyama K et al. (2021) Chemogenetic dissection of the primate prefronto-subcortical pathways for working memory and decision-making. Sci Adv 7:eabg4246.
- Oyama K et al. (2022a) Chronic behavioral manipulation via orally delivered chemogenetic actuator in macaques. J Neurosci 42(12): 2552–2567.
- Oyama K et al. (2022b) Chemogenetic disconnection of the primate orbitofrontal cortex and rostoromedial caudate disrupts motivational control of goal-directed action. J Neurosci, in press.