動物の温度適応における回路選択・機能構築センサス

久原 篤

甲南大学 理工学部/統合ニューロバイオロジー研究所 教授

温度は地球上において必ず存在する環境情報であり、常に変動する温度環境下において、生物は暴露された温度環境に一定の時間をかけて適応する馴化の機構を持っている。動物の個体の温度応答に関わる温度受容体として、皮膚や神経系で発現するサーモTRPチャネルが知られており、末梢神経系から中枢までの温度感知の神経回路が同定されてきている。一方で、生体が環境温度に徐々に慣れていく温度馴化に関わる神経変遷機構には未知の点が残されている。本研究では、温度応答に関わる多様なニューロンが、どのように下流の神経回路を機能選択し、体の低温への馴化を引き起こすのかを解析する。
本研究では、シンプルな神経系を持つ線虫C.elegansを使い、オリジナルの温度馴化の解析系を用いて、温度馴化の過程で機能選択される神経回路と、その作動原理を解き明かす。まず、温度馴化に関わる温度受容ニューロンの下流の神経回路を同定する。そのための手法として、神経活動イメージング技術と、光駆動性チャネルを用いる。同時に、遺伝学解析から神経系が原因で温度馴化異常をもつ変異体を単離し、次世代DNAシーケンサーを用いて原因遺伝子を同定する。変異体の様々なニューロン群に野生型遺伝子を発現させ、温度馴化異常が回復した系統と、回復しなかった系統に分けてトランスクリプトーム解析を行い、温度馴化に関わる新規の神経細胞候補を絞り込む。その細胞に関して神経活動イメージング技術と、光駆動性チャネルを使い、温度馴化に伴い機能選択される新規の神経回路を同定する。本研究は、動物の温度馴化に関わる新規の神経回路を同定するための新しいストラテジーを示すことになると考えられる。

文献

  • Takagaki N et al. (2020) The mechanoreceptor DEG-1 regulates cold tolerance in Caenorhabditis elegans. EMBO rep 21: e48671.
  • Okahata M et al. (2019) Cold acclimation via the KQT-2 potassium channel is modulated by oxygen in Caenorhabditis elegans. Science Advances 5: eaav3631.
  • Ujisawa T et al. (2018) Endoribonuclease ENDU-2 regulates multiple traits including cold tolerance via cell autonomous and nonautonomous controls in C. elegans. PNAS 115: 8823-8828.
  • Ohta A et al. (2014) Light and pheromone-sensing neurons regulate cold habituation through insulin signaling in C. elegans. Nature commun 5:4412, 1-12