記憶状態の遷移を担う神経回路ダイナミクス

研究代表者

佐々木 拓哉

教授 東北大学 大学院薬学研究科

研究分担者

船水 章大

講師 東京大学 定量生命科学研究所

適応回路を調べるために、神経細胞1つ1つについて、遺伝子発現・形態・生理特性を網羅的に調べる実験技法を確立します。
本技術によって、動物の適応行動に必要な記憶遷移メカニズムについて、分子から行動まで因果的に繋ぐ研究を目指します。

 動物は外界環境の変化に対し、記憶に基づいて適応行動を採ります。これまで、多くの神経生理学・新回路学研究により、様々な記憶状態や意思決定などの脳機能を説明するための神経活動が解明されてきました。同時に、こうした知見から、脳の神経細胞は均一な集団ではなく、多様な生理・形態的な特徴を有することがわかり、さらに近年のトランスクリプトーム解析などからは、こうした特徴が多様な遺伝子発現パターンでによって担われている可能性が示唆されています。
 このような課題をさらに詳しく調べるために、本研究では、既存の神経生理計測に加えて、神経細胞1つ1つについて、遺伝子発現・形態・生理特性を網羅的に調べる実験技法を確立します(単一細胞における神経回路seqと神経活動seq)。本技術によって、動物の適応行動に必要な記憶遷移(獲得・固定化・安定化など)を担う各神経細胞の生理活動が、どのような解剖学的構造に裏打ちされ、またどのような遺伝子発現プロファイルによって規定されるか、分子から行動まで因果的に繋ぐ研究を目指します。遺伝子操作技術、細胞形態の再構築、RNA-seq解析、標本データ解析など、複数の専門技術を扱うため、領域内の研究者とも積極的に連携をします。
 近年のオミクス解析技術の発展から、脳神経細胞の遺伝子発現パターンに関するアトラスはほぼ完成しつつあります。また、大規模生理計測法(電気生理計測、イメージング技術など)が発達し、適応行動や記憶と関連する神経活動が多数明らかになっています。本研究は、そのような両者の知見を繋ぐ位置づけであり、適応機能を担う神経活動の基盤となる神経投射構造や遺伝子発現プロファイルの網羅的解明を目指します。

【研究紹介図】

主要な関連論文

  1. Shikano Y et al. (2021) Minute-encoding neurons in hippocampal-striatal circuits. Curr Biol. 31: 1438-1449.
  2. Igata H et al. (2021) Prioritized experience replays on a hippocampal predictive map for learning. Proc Natl Acad Sci USA. 118: e2011266118.
  3. Sasaki T et al. Dentate network activity is necessary for spatial working memory by supporting CA3 sharp-wave ripple generation and prospective firing of CA3 neurons. Nat Neurosci. 21, 258-269.