適応回路センサス(ACC)ハンズオン講習会開催報告
早川 慶紀、尾崎 遼(筑波大学)
2024年1月16日(火)〜 17日(水)に筑波大学にて、遺伝子解析促進委員会の活動の一環として、班員の1細胞RNA-seqデータ解析技術の向上を目的として、「適応回路センサス(ACC)ハンズオン講習会」を開催しました(参加者22名)。本講習会では、ハンズオン形式での講習を提供することで、班員に実践的な1細胞RNA-seqデータ解析を学んでいただくことを目指しました。
本講習会では、RとSeurat(スーラ;New York Genome CenterのRahul Satija博士のグループに開発された1細胞RNA-seqデータ解析用のRパッケージ)を用いた1細胞RNA-seqデータ解析を、1つ1つの手順を理解しながら学べるようにすることを目指しました。そのために、参加者が実際に手を動かす時間をなるべく確保するために、インストールの苦労を回避して同一の計算機環境にてすぐにハンズオンを開始できるような環境を整えました。具体的には、あらかじめ1細胞RNA-seq解析に必要なRパッケージをインストールしたDockerコンテナを用意した上で、研究室のサーバー上にRStudio Serverを立ち上げ、そこに受講生がログインしてハンズオンを行うということを行いました。このシステムは参加者にも好評で、できれば各研究室でも利用できるように今後整備したいと考えています。
さらに本講習会では、1細胞RNA-seqデータ解析のチュートリアルでよく用いられる末梢血単核細胞(PBMC)のデータではなく、神経科学に関連した1細胞RNA-seqデータを用いました。これは、「神経科学のデータの方が参加者がより興味を持てるのではないか」という郷康広先生(兵庫県立大学)の発案によるものです。そのために、公募班の竹内秀明先生(東北大学)のグループのご厚意により、メダカの雌雄由来の視蓋および終脳由来の10x Chromium による1細胞RNA-seqデータを提供いただきました。
1日目は、まず「R入門からSeurat超直行便」と題し、Rの基礎からSeuratのオブジェクト構造を学び、Seuratを用いるための準備をおこないました。続いて、Seuratへの1細胞RNA-seqデータの読み込み、低品質細胞を除去する閾値を自動決定するddqcを用いたデータQC、データの正規化や統合について学びました。特に、Seurat v5 で登場したLayersという構造に触れつつ、複数のデータを同時に扱う方法について学びました。その上で、高変動遺伝子の抽出、次元圧縮、クラスタリングといったSeuratでの基本的な解析の流れを学びました。
2日目は、前日に引き続き、RとSeuratを用い、1細胞RNA-seqデータの高次解析について実践的に学びました。特に、ScTypeとAzimuthを用いた細胞型アノテーション、Seuratを用いた様々な種類のプロットによる遺伝子発現量可視化方法、2条件間での発現変動遺伝子解析について学びました。
講習会では、受講者からは様々な質問や意見が出て大いに盛り上がりました。基礎的な質問から、実際の論文を書くときや他の実験データとの整合性に関するハイレベルな質問まで出て、講習会スタッフとしても大いに刺激を受けました。本講習会が、班員の研究の助けになることを願ってやみません。
最後になりますが、データ提供いただきました竹内先生・梶山先生(東北大学)・安斎先生(京都大学)、貴重な機会をいただきました郷先生、スタッフとして手伝っていただいた仮屋山博文さん・井尻遥士さん、サーバー・ネットワーク周りをサポートいただいた松澤亮輔さんにこの場を借りて感謝いたします。