前頭前皮質−線条体回路を構成する細胞の機能的活動特性の精査

野々村 聡

滋賀医科大学生理学講座 特任講師

大脳皮質–基底核回路は、適応的な行動選択を行うために、様々なシグナルを伝達する。前頭前皮質から線条体への神経路は、報酬に基づく意思決定に関与するさまざまな情報を送る重要な経路であるが、中でも内側前頭前皮質(mPFC)は、報酬の損失などのネガティブな情報を特異的に処理することが示唆されている。線条体もまた意思決定に関わるシグナルを伝達しており、主に直接路と間接路と呼ばれる2つの経路を構成する細胞が、報酬または無報酬に選択的に応答する特性を持っている(Nonomura et al., 2018)。こうした報告は、mPFCおよび間接路細胞がネガティブな情報を特異的に処理している可能性を示している。近年、直接路および間接路の固有の活動特性は、従来支持されてきた黒質緻密部からのドーパミン作用に加えて、大脳皮質からの入力が重要であることがわかってきている。しかしながら、技術的な制約もあり、大脳皮質からのどのような入力が、直接路および間接路細胞の固有の活動特性を決めていのかは未だ不明である。
本計画では、光遺伝学的手法と多細胞同時記録を用いた細胞タイプ特異的な発火活動記録と、ネガティブな情報処理機能に焦点を当てた行動課題「報酬の減衰に基づく行動選択課題」を組み合わせることで、mPFC細胞のうち、線条体へ投射をする細胞がどのような活動特性を示すのかを明らかにすることを目指す。また、解像度をより一層高めてmPFC-線条体回路の活動特性を調べるために、線条体に投射をするmPFCの細胞が、直接路または間接路のどちらに投射をしているのかを区別するための実験系の構築をする。

文献

  • Nonomura S and Samejima K. (2019) Neuronal Representation of Object Choice in the Striatum of the Monkey. Front. Neurosci., 13. 1283
  • Nonomura S et al. (2018) Monitoring and Updating of Action Selection for Goal-Directed Behavior through the Striatal Direct and Indirect Pathways. Neuron 99: 1302-1314.
  • Nonomura S et al. (2017) Continuous membrane potential fluctuations in motor cortex and striatum neurons during voluntary forelimb movements and pauses. NEUROSCIENCE RESEARCH 120: 53-59.