構成細胞のスパイク統計特性に着目した適応機能の要素回路抽出法の開発

坪 泰宏

立命館大学 情報理工学部 准教授

適応脳機能を担う脳神経回路において、いつ、どの領域・層で、どの細胞が、どのようにして、「何が起こること」が要素なのかを明らかにすることためには、脳神経回路のネットワーク配線のような静的な構造を調べることはもちろん、その神経回路で実現される動的な構造を、要素ダイナミクスとして抽出することが重要になります。神経回路は、主にスパイクを介して情報伝達を行っているため、要素ダイナミクスを抽出するためには、要素回路を構成している神経細胞の、スパイクに関する機能的特性の多様性を考慮することが重要になります。従来は、同時計測される神経活動が小規模であったため、多様性を扱う際には「分類」することが主でした。近年、高集積電極等によって大規模神経活動が得られるようになり、多様性を多様なまま「分布」として扱うことが可能になりつつあります。そこで本研究では、神経細胞のスパイク時系列の統計特性の多様性に着目し、連続的な個性をもった神経細胞たちが、要素回路上でどのような立ち位置で、どのように振舞っているのかについて、入力機能、出力機能、高次機能、記憶機能によってどのように異なるのかを解析することで、適応脳機能を担う脳神経回路から、その要素ダイナミクスをあぶりだすことを目指します。また、本研究で得られると期待される知見は、素子の仕様の画一化が求められてきた人工デバイス開発分野に対しても、不均質な素子を特長として生かせる方法の提案につながる可能性を秘めています。

文献

  • Kato M et al. (2022) Spatiotemporal dynamics of odor representations in the human brain revealed by EEG decoding. PNAS 119: e2114966119.
  • Mochizuki Y et al. (2016) Similarity in Neuronal Firing Regimes across Mammalian Species. J Neurosci 36: 5736-5747.
  • Tsubo Y et al. (2012) Power-law inter-spike interval distributions infer a conditional maximization of entropy in cortical neurons. PLoS Comput Biol 8: e1002461.
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